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ハゲタカのSS不定期掲載
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ワシユカ結婚後ネタ。
新婚設定です。 寝ぼけたら『わしづさん』って呼んじゃうのが初々しいでしょ?
コンシーラーは強力しみ&あざ隠しです。
私の好みはアーデンかディオール。
肝心の由香の夢の内容はスルーかよ?(笑)





鷲津が帰宅したのは、午前3時を回ってからだった。

疲れたため息をつきながら玄関の鍵を開けて中に入ると、リビングから明かりが漏れていた。

――まだ起きてたのか

「由香、そこにいるのか?」

鷲津がリビングに入るが、そこに由香の姿はなく、部屋は静まり返っていた。

「?」

ふと気配のようなものを感じ、鷲津はソファに歩み寄る。

案の定、その中に横たわり、由香が眠り込んでいた。

ちょっと一息のつもりで座ったソファで、そのまま眠ってしまったのだろう。

由香はまだ、帰宅時のスーツのまま。

イヤリングだけ、テーブルの上に投げ置いてある。

「由香?」

いちおう声をかけながら頬を撫でてみるが、やはり由香の起きる気配はない。

少しくすぐったそうに、首を傾げただけで。

新妻の無邪気な様子に、鷲津は知らず微笑んでいた。

ソファの空いたスペースに腰を下ろして、由香の寝顔を見下ろす。

いつもこんな素直な顔してたらかわいいのに、などと思いながら。

と、同時に。

先日、何気なく言われた芝野の言葉を思い出した。

「な、鷲津。 結婚って、いいもんだろ」

芝野には、今年大学を卒業する娘がいる。

その娘が、父親と同じ金融の道に進みたいと話してくれたとき涙が出そうだったと、上機嫌で彼は教えてくれた。

どんなに疲れて帰ってきても、娘の顔をみるだけで癒されてきたと。

そうだな。

だが、幸せの形なんて、人それぞれだ。

こっちだって、芝野に負けてない。

由香への愛おしさでは、絶対に。

我ながら、自分ののろけに苦笑した。

小さく咳払いし、鷲津は由香の身体に何か掛けたほうが良いと思い立った。

寝室から毛布でも取ってこようと、彼が立ち上がりかけたときだった。

「もう・・・から・・・・・・」

「?」

由香が僅かに身を捩りながら、かすかに聞き取れない声で何か言った。

すわ、自分が起こしてしまったかと思ったら、どうやら寝言らしい。

そしてまた、由香が聞き取れない声で何か呟く。


――どんな夢を見ているのか


単純に興味が湧いて、鷲津は由香に注目した。

由香はくすぐったそうにしながら、やや不機嫌そうに見える顔で唱えた。

「・・・勘弁して・・・さむ・・くん・・・」

固有名詞らしき言葉が、まだはっきりしない口調で語られた。

由香は、西野の絡んだ夢でも見ているらしい。

『勘弁して』とは、穏やかではない。

夢ながら、西野のやつ、由香に無体な要求でもしたのだろうか?

鷲津が推測する横で、由香はため息をついてしばし無言になる。

が、またしばらくすると、目を閉じた由香は居心地悪そうに首を竦める。

その様子は困っているようで、どこかうれしそうにも見えて気になった。

いったい誰に話しているのか、今度はなかなか名前が出てこない。

また夢の中で西野とやりとりしているのか、寝言もはっきりと聞き取れない声だった。

やがて続く言葉。

「・・・ね・・もう限界・・・・・も・・・無理だって・・・」

限界? 無理?

聞き取れたのは、その短い単語だけだった。

察するに、どうやら夢の中の誰かは、何かをまだあきらめてないようだ。

由香はまた聞き取れない声で、困ったように訴え続けている。

はっきり聞き取れなくても、それは西野への拒絶らしき言葉だと推察出来た。

先日そういえば、彼らの間でこれと似たようなことがあった。

取材源のことで、由香は西野に借りを作ってしまい、そのお返しを強請られたらしい。

その取材が、風俗関係企業の特集だったことを後に知り、鷲津は舌打ちしたい思いだった。

何を西野ごときにと思うが、彼が新興企業の情報に長けていて、またいかに手堅い投資家であるかも鷲津はよくわかっている。

由香が自然、あの独特な世界一流の西野に丸め込まれたのは、わからなくない。

しかし由香自身は、困ったような様子ながらも、その寝顔の表情は笑っていた。

由香は西野も含め、良い友人と先輩、そして同僚に恵まれている。

その中で彼女が成長し、いつか自分と対等なパートナーとして働いてくれるようになる日がくればと、鷲津は思っていた。



そうだ、何年先になるか分からない未来。

風穴の開けられたこの日本。

バブルの後遺症に苦しむ有名無名の企業にあって、経営者と投資家、従業員が一丸となって再生の道を模索していく。

鷲津は、芝野や鷲津ファンドのスタッフたちと描く未来を思った。

そして、良き理解者としてジャーナリストとして立派に成長した由香がいて、自分の補佐となってくれている。

そんな、理想。



鷲津が理想の未来に思いを馳せていたとき、由香はまだ夢の続きを見ていたらしい。

今度は何を話しているのだろうと、その声に耳を傾ける。

「・・・・へた・・・なんだから・・・きゃあ・・・ん」

西野のからんだ、先日の仕事の夢ではないのだろうか?

由香がくすぐったそうに首をかしげた。

「どうした?」

その仕草が可愛らしく、鷲津はそっと頬に触れながら声を掛けてみた。

すると、由香はまた笑った。

それも、どきりとするぐらい可愛らしく。

そして鷲津を虜にした、愛らしいしなり方で言った。

「そんなんじゃ・・・・、ごほうび・・・あげられない・・・・・治、・・くん」

「・・・・・」

由香の口から出て来る台詞は、正直、鷲津には不愉快なものだった。

仕事の夢なら、関りのある彼の名前が出て、おかしいことは何も無いのだが。

わかっていてもやはり、不愉快な思いは拭えなかった。


――何を馬鹿な、たかが寝言じゃないか


鷲津は自分の幼稚な独占欲を自嘲気味に笑い、由香の肩にそっと手をかけた。

「風邪ひくぞ?」

軽く肩を揺する。

すると、由香は嫌がる風ではなく、ただくすぐったそうに肩を竦めた。

「・・・くすぐっ・・・たい・・・・・・・」

「由香・・・?」

由香がふわっと、笑った。

鷲津の一番好きな、由香の優しい笑顔だった。

それを今、由香は夢の中とはいえ、西野治に向かって、見せているらしい。

いったい・・・どういう夢をみているのだ?

「あ・・・ん・・・」

また、くすぐったそうに笑う。

鷲津の血の気が一気に下がった。

由香の声と口調と仕草は、嫌が応にも鷲津の中で非常に好ましくない画と結びついていた。


――由香、君はどんな夢を見ているんだ!?


なぜ、そんな場面に西野が出てくる。


――いったい君らは何をして?


今度は小さな叫びと共に、由香が華奢な身体を捩った。

そして、ふっとその顔が微笑んだ。

今まで以上に、その顔は優しげだった。

ブチッ・・・・と。

鷲津の中で、何かが切れた・・・・ようだった。

「・・・・・」

鷲津は自分のネクタイの結び目に指をかけると、静かに緩めた。

そして、相変わらず幸せそうに微笑んでいる由香の顎を指で捉え、顔を仰向かせる。

そして身を屈めると、微笑を湛える唇を自らの唇で覆った。

「ん・・・・?」

首筋まで震わせるような熱い刺激に、由香はぼんやりと目覚めた。

熱い吐息を吐いて、由香は数度、瞬きを繰り返す。

「あ・・・鷲津さん」

由香が何の疑問もなく、鷲津の名を呼んだ。

そして、愛する夫の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。

が、それはちょっと・・・・遅かったのだった。

「・・・ずいぶんと、楽しそうだったな」

鷲津は、由香を見下ろしたまま言った。

寝起きの由香は、何か私の唇おかしかった・・・?というぼんやりとした顔で、指で唇をなぞっていたのだが。

鷲津の質問に、意味がわからず首を傾げた。

「・・・え、何が?」

「夢を見ていたんだろう?」

由香はきょとんとした。


――夢?


そういえば、何か見ていたような、いないような?

由香には、直前まで見ていた夢の記憶がなかった。

「え・・・、私、夢・・・見てたの?」

覚えがない由香は、やだな、寝ぼけて恥ずかしいなあ、という程度の気持ちでいた。

「ああ、見ていた。 ・・・で、誰と逢っていたんだ?」

尋ねながら、鷲津は指先を由香の頬から顎、そして首筋へと滑らせた。

首筋を撫でられ、由香はくすぐったそうに身を竦めた。

「えっ、・・・誰かと会ってたの?」

「ああ、楽しそうだった。 ・・・・何をしていたんだ」

「何って、・・・さあ?」

由香にとっては、まったく覚えのない夢のことばかり尋ねる鷲津である。

眼鏡の下の鋭い視線に、由香は次第に居心地が悪くなり、起き上がろうとした。

が、このまま起き上がったら、鷲津とぶつかってしまう。

由香は身じろいで、鷲津に起き上がりたいという意思を伝えた。

しかし、鷲津のどいてくれる気配はない。

由香の意図に気付かないのではない、わざとどいてくれようとしないのだ。


――何だか・・・わからないけど・・・・


「鷲津さん? ・・・・あの・・・・どうか、したの?」

尋ねながら由香は、首筋に何か不吉な予感を覚えた。

それは、悪寒を感じるほど冷たかった。

鷲津は何も答えず、由香を見下ろしていた。

そして、やがて小さく笑って見せた。

「え・・・?」

ぞっと、由香は動物的な本能でその微笑に怯えた。


――なっ、何?


何か知らないけど、・・・なんかへんな雰囲気?!

危険を知らせる非常灯が、由香の中で点滅した。

由香は慌てて鷲津の身体の下からすり抜け、起き上がった。

しかし、立ち上がって逃げる事はかなわなかった。

「えっ・・・・や?!」

視界が斜めに揺れたと思った次の瞬間、由香は鷲津の腕の中に抱え上げられてしまっていた。

「やだっ? ちょっと、何!」

暴れるが、鷲津は由香を抱いたまま歩き出す。

その動作に無理をしている様子は伺えない。

左脚のほうはまだ、完全に治っていないはずなのに。

世間を油断させるため、わざと完治してないふりでもしてるのではないかと思うくらい。

が、今はそんな事に感心している場合ではなかった。

鷲津が向かっている先は、寝室―――

「・・・・って、いきなり何なの、政彦さんっ!! 下ろしてよっ!!」

「あくまで、しらを切るならそれもいい。 こっちでじっくりと、さっきの夢の申し開きをしてもらおう。・・・・手加減はなしだ」

―――ええっ?!

「ちょっと待っ・・・、夢の申し開きってなんの話? 知らないってば! そんなのっ!」

由香の悲鳴を残し、無情にも寝室のドアは閉められてしまった。

 

 

翌日、由香のメーク担当が、ため息まじりにコンシーラーを追加発注したかどうかは別の話。

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