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ハゲタカのSS不定期掲載
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思い通りにいかないことってありますよ、彼のような優秀なファンマネでも。
そんなわけで、仕事上なにやら勃発して自己嫌悪の鷲津くんを書いてみました。
由香ちゃんとは出来上がってます、うふふ。
エロはないです。(まだここに書く勇気ない)





何もかも、どうでもよくなる時というのが、人間にはある。

例えばそれは仕事が忙しすぎたり、取引先に無理難題を押しつけられたり、部下に嫌みを言われたり、など。

元来、几帳面・勤勉・真面目一本槍のエリートにだって、そういうことは例外なくあるわけで。

そんなとき鷲津は、いつもよりほんの少し仕事を早めに切り上げ、風呂上がりに牛乳を一気飲みして、さっさと寝ると決めている。

だが今日のように疲れがピークに達している時は、風呂にすら入らない。

さらに皺になろうが染みになろうが、スーツも脱がない。

ただ部屋にたどり着いたら、本能に任せてその辺に倒れ込むだけだ。

独り暮らしの気軽な身の上。

だらしないと叱る人間もいない・・・・・・はずだった。



「ねえ、鷲津さんてば」

「・・・・・・」

「そんなとこで寝たら、風邪ひくわよ」
 


言われなくてもわかっている。

春と言っても、夜になるとまだまだ冷え込む。

ソファの上で毛布もかけずにうたた寝しようものなら、てきめんに風邪をひくだろう。

わかっていても、何もかもがどうでもよい気分なのだから、しょうがないではないか。

それをいちいち、母親みたいに言いやがって。

ハハオヤか、あんな女、こっちから三行半つきつけてやる。

反抗的な気分で、鷲津はごろりと寝返りをうった。

知らず、気遣わしげにこちらを見る視線に背を向けて。

ポケットの中身くらい出したほうがよかったか、と頭を掠めた躊躇(とまど)いは、次の瞬間どうでもよくなっていた。



「もう。 知らないから」
 


どう見てもふて寝としか思えない鷲津の背中に、由香は盛大なため息をついた。

そして当てつけがましく聞こえたかもしれないと、次の瞬間、慌てて唇を結ぶ。

これ以上、この坊やの機嫌を損ねたら始末に負えないことを、由香は知っているから。
 



確かに今夜は、アポなし突撃訪問に近かったことは認める。

溜め込んでいた特集記事が書き上がって(しかも褒められた)、浮かれていたせいもある。

うれしくて鷲津を食事に誘ったら、めずらしく既に自宅に帰り着いているという。

それならばと、彼の大好きな代官山鳥千のせせりを買って、うきうきと押しかけてきた次第だ。

電話口で聞いた鷲津の声がなんとなく投げやりだったのを、そのとき特に気に止めなかったのも失点である。

部屋で待ちかまえていた鷲津は、いつも以上に無口で、いつも以上に無愛想だった。

感情の機微に聡(さと)い由香は、慌てて平日の夜、こうして自分の都合で一方的に訪ねた非礼を詫びた。

しかし鷲津は顔を伏せたまま、「君のせいじゃない」「少し疲れているだけだから」と言って、それきり黙り込んだのだった。



「ねえ」

「・・・・・・」

「いきなり来たから、やっぱ怒ってるんでしょ?」

「・・・・・・」

「もう寝ちゃった?」
 


もぞ、とワイシャツ越しの背中が動く。

けれど眼鏡を外した鷲津の目は、閉じられたままだ。

この家に上がり込んでからずっとこの調子で、いささか由香も時間を持て余し始めていた。

冷蔵庫に冷やしておいたカクテルやワインが気になったが、一人で飲んだところでちっとも楽しくない。



鷲津が人前でこんな風に不機嫌な姿を見せるのは、実際すごく珍しい。

それがポジティブであれネガティブであれ、彼は感情を表に出すことを潔しとしない人間だったからだ。

こうしてつきあいが深まっていくうちに、由香は彼の固い殻の下に隠された感情の波を垣間見るようになった。

そのたび由香は、まるで鷲津の秘密を共有できたような、新鮮な気分を味わったのだった。

初めてプライベートで喧嘩をしたときなど、その怒りで紅潮した顔にいつの間にか見入ってしまった程だ。

ああ、この人、素ではこんな顔をして怒るのだ、と。




ソファに身を投げ出した鷲津は、ワイシャツもネクタイもきっちり身につけたままだ。

これで朝まで寝ていても、ほとんど疲れはとれないだろう。

今夜の鷲津の不機嫌の理由は、よくわからない。

けれど、疲れているということはわかったので、由香はソファの傍らに膝をついた。

せめてネクタイだけでも緩めれば、少しは楽になるだろう、と。



「失礼しまあす・・・・・・」
 


まずは履いたままだった黒いソックスに手をかける。

薄手のそれを脱がすと、硬質な足の甲が目に飛び込んできた。

続いて、短く切りそろえられた爪先。

律儀な性格そのままに整えられたその形が愛しくて、くすぐったら酷く叱られたことがあった。

それはすなわち、自分の弱点のひとつを由香に知らせたも同じだったのだが。

その後の彼の無体ぶりを思い出して、由香は耳元まで熱くなった自分に気づき、あわてて首をふった。

鷲津の表情を窺うと、特に嫌がる様子もなくおとなしく介抱されているように見える。

彼はどうやらこのまま由香を放置して、ふて寝を続行する予定のようだ。



「ネクタイ、外しますよ?」
 
一応、聞こえているのかわからない相手にうかがって、由香はネクタイに手をかけた。

喉元が苦しくないのかと心配になるほど、女の力にその結び目は固い。

首筋に擦れないように慎重に解くうち、由香の顔は首筋に吐息が触れる程近づいていた。

薄く動脈が浮き出た、男らしい筋肉質な首から顎にかけてのライン。

その下に隠されたほくろに、ふと目が留まる。

ふっと息を吹きかけると、喉仏がごくりと鳴った。

目線を上げると、鷲津の硬く閉じられた眦(まなじり)がうっすら紅く染まっている。

吐息が首筋をかすめるたび、鷲津の眉間がぴくりと反応するのがわかる。

やがて慎重な指つかいで、由香がゆっくりと彼のネクタイを抜き取った。



どうあってもふて寝を決め込む様子の鷲津と、なんとかして目を開けさせたい由香。

こうなると由香のほうが、だんだん勝負しているような気分になってきた。



「次はシャツでぇす」



ボタンを外すと心拍数が上がるような気がして、由香は深呼吸してリズムを整えた。

シャツの下から少しずつ現れる素肌はしっとり滑らかで、けれど不自然に強ばっている。

彼の敏感な部分、腋からわき腹にかけてのあたりは、まだシャツの影に隠れて見えない。

そうして由香はようやく、鷲津のウエストのところまでボタンを外し終わった。



「次は、と・・・・・・」
 


まずシャツからぜんぶ脱がそうか、それとも先にスラックスを脱がそうか。

そんなことを考えながら、鷲津の表情を覗き込んで由香は思わず見惚れてしまう。

シャツから指が離れていく瞬間、吐息を逃すために薄く開いた唇。

秘やかに漏れるため息が耳朶をくすぐった瞬間、由香は衝動的に鷲津の頬にくちづけていた。

舌で軽く舐めると、鷲津の背が大げさに跳ねあがる。

驚愕に見開かれた黒い瞳が、視界の端に映った。

強い力で両肩をつかまれ、由香はようやく唇を離す。



「はっ・・・あ!・・・」

「はい、鷲津さんの負けー」

「なっ」

「目、醒めたでしょ?」


 
唾液に濡れた頬を手のひらで撫でる鷲津に、由香は笑いかける。

崩れた髪と裸眼の顔が妙に色っぽくて、胸がじわりと熱くなった。

とりあえず、この勝負は私の勝ちということで。 



「罰ゲームとして今からシャワー浴びて、パジャマに着替えて、それから私と一緒に鳥千のせせり食べてください」
 


笑いながら差し伸べられた由香の手を無視して、鷲津は憮然と起き上がった。

さっきまでの無気力感が、嘘のように吹き飛んで見える。

まさかと思うが、『負け』という禁句(彼の辞書にない言葉)に反応して、闘志が湧いたとでも言うのだろうか。

ご名答、几帳面・勤勉・真面目一本槍のエリートは、また大変な負けず嫌いでもあった。



「由香さん」

「な、何?」 

「シャワー浴びたら、もう一勝負したい」

「・・・・・え?」



この勝負の行く末がどうなったのか、それはまた別の話。

 

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