お笑いモードのワシユカSSです。
こういうの楽しいよね。にしても、うちの西野くんはブラックですわ~。
由香ちゃんがだんだん退化していくの、どうよ。
どうでもいいですが、このあと由香ちゃん、大変だったろうなあ。
制服、当然クリーニング行きです。(笑)
ちょっと待て、君たち正気か?
こんなところ誰かに見られたら、どうするつもりだ?
主犯は西野だろうが、いったい何考えてるんだ。
開いた口が塞がらない、とはこのことだ。
『男にして女の誘惑より身を脱するは、まことにこの世のただ一つの奇蹟たるべし』
鷲津は今夜、その言葉を身を持って実感することになった。
目まぐるしく変わる世界市況の流れのなか、鷲津ファンド代表として心身をすり減らす日々の鷲津である。
今夜も、そろそろ北米マーケットが開くかという時間、彼の部屋を訪ねたのは毎度お邪魔虫の西野。
そして彼の後ろに隠れて、おどおど身を竦ませているのは・・・
本年度アナウンサー人気投票ナンバー1、プライム11の花形ニュースキャスターでなく。
おさげ髪を結い、セーラー服を着た女子高校生姿の三島由香―――だった
「よう、鷲津ちゃん。 今日もがんばってるねぇ」
「いきなりこんな時間に、ごめんなさいっ!」
突如ドアを開いて現れた来訪者に、鷲津は目を見開いたまま文字通り数秒間かたまった。。
相変わらず、受付も秘書室も素通り、アポも先客もおかまいなしの西野である。
頭の中を必死に整理しようとしたが、鷲津はしばらく言葉らしい言葉を紡げない。
ただただ、呆然とデスクの前に立ち尽くす。
それというのも。
「・・・由香さん、その格好・・・・」
やっとのことで、それだけを喉からしぼり出した鷲津。
しかしその声も、西野の邪悪な高笑いに一掃されてしまった。
「ね、こういう由香ちゃんもカワイイでしょ? あんたの喜ぶ顔見たくてわざわざ連れて来た」
そう言って西野はふり返ると、由香の胸元のスカーフをわざとらしくひらひらして見せた。
ミニのプリーツスカートから、由香の細く形のよい素足が伸びている。
「・・・治くん、やめて。 悪趣味だってば」
「・・・由香さん、もしかして、君は隠れてこんな趣味が・・・」
「違いますっ! これというのも治くんがっ!」
最後まで聞かず、鷲津の言葉を由香はもの凄い勢いで否定した。
しかし真っ赤になった顔を、鷲津のほうへまともに向けることはできない。
西野の背にしがみつき、内股のブリブリポーズで言われても、この場合、説得力皆無である。
脱力して、額に片手をあて瞑想したまま、鷲津が椅子に腰を下ろす。
そうして深いため息をつく恋人に、由香はおずおずと事情を説明し始めた。
「・・・あの、鷲津さん、・・・今日は東洋テレビの創立記念日だったでしょ・・・それで、式典のあと、・・・ホールでパーティーがあって」
「ああ、急遽来客があって、僕は出席できなくなったが・・・。 君が司会を担当したんだろう? 東洋新聞社や講学社、グループあげて発展を誇示する、結構なことだ」
「・・・その会場に、治くんも招かれてたんだけど、・・・それが」
ここで西野が待ってましたとばかりに、陽気に口をはさんできた。
「だってさあ、メデタイ日だってのに、由香ちゃんったら、ダっサダサのいつものスーツで、なに?これぇ?もしかして株主総会~って感じなのよ」
「ち、ちがいます! あれはちゃんとスタイリストさんが選んでくれた冠婚葬祭用の」
「でね、せっかくだから、ちゃんと視聴者のみなさんが喜んでくださるような服を着なさい、と」
「そうなんですっ! そういうこと社長の前で平気な顔して言い出すんです、この人っ!」
今や西野は東証一部上場、成長著しいレジャーグループの社長である。
飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのこと、近く経団連にも正式会員として認められる予定で、既に名だたる企業が何社か提携を申し出ている。
「いやさ、何しろうち、東洋テレビの大スポンサーじゃん。 それでまあ、俺の提案っていうか希望っていうかさあ、ノープロブレムでゴーサインなんだよねぇ」
「ひどい、治くんっ! 昔、私がファミレスでどんだけごちそうしてあげたと思ってんのっ!!」
「で、東洋テレビの社長に、君は何を直接『提案っていうか、希望っていうか』申し出たんだ」
「うん、だからこれを」
そう言うと、西野はセーラー服姿の由香を鷲津に向かってうれしそうに押し出したのだった。
「・・・こういう格好をした成人女性を見て、・・・喜ぶのは一部のマニアだけだろう」
「やだなあ、鷲津さん。 一部のマニア、そういうのがすごい大事なんですって。 ネットのこともう少し勉強したほうがいいなあ、オタクの気持ちってやつ」
日本を代表する投資顧問会社の社長となった鷲津を、平然と鼻で嗤う西野。
国内外を問わず、ネットワーク関連事業の情報収集と分析に、西野の存在が欠かせないのは事実である
かと言って、今夜の由香の仮装と自分の運用するネットファンドビジネスが、どこでどう繋がるのか理解に苦しむ鷲津であった。
何とリアクションしていいかわからず、とりあえずスカーフをいじる由香を鷲津は一瞥した。
身に纏っているセーラー服は夏服仕様で、爽やかな白い生地の上着。
そしてこれに、襟元にまとったスカーフのえんじ色がよく映えている。
紺のミニスカートも白のルーズソックスも、今どきの女子高生そのものだ。
確かに由香は何を着ても似合うし可愛い、それは認める。
細身の身体が、高校時代とさほど変わらないスリーサイズであることも認める。
―――しかし。
「ごめんなさい、鷲津さん。 治くんにセーラー服とブルマーと猫耳メイドのどれか選べって言われて。 セーラー服が一番ましかなって、選んだのは私なんです」
「そういう問題でないだろう」
鼻歌まじりの西野をよそに、すっかり涙目で落ち込む由香である。
「どちらさんも、そういうわけで。 じゃ、俺これから合コンなんで、帰るわ」
西野がひらひらと片手を振り、ああ面白かったとばかり、きびすを返す。
嬉々とした男の後姿に、鷲津は狼狽させられている自分が次第に情けなく思えてきた。
『そうだ、そもそも西野のやつに、常識なんて期待するのが間違いなんだ』
即座に情報を整理し、鷲津は冷静に考えてみる。
西野は東洋テレビにとって、大切なスポンサーなのだ。
一会社員である由香に、社長を通した命令とあらば逆らえない雰囲気もあったのだろう。
鷲津はため息を吐くと、うなだれる由香の全身をもう一度眺め直した。
腹をくくった、と表現した方が正確かもしれない。
「・・・で、成果は?」
「?」
「君は会社のために尊い犠牲を払ったんだ。 東洋テレビにとって有益な投資の約束を、彼からとりつけたんだろう?」
「・・・そういえば社長と、深夜枠でコスプレ番組をどうとか話してたけど・・・」
なるほど、深夜帯の番組を企画から丸ごと買い取ったのか。
彼の計画のどこまでが酔狂でどこからが本気なのか、未だつかめない鷲津である。
―――しかし、その手の番組ならメインターゲットはオタクじゃないか。 そんなんで日本の未来は明るいのか暗いのか。
「事情はわかった。 で、君はそもそも、どうしてここにその姿で来たんだ」
“ここ”とはもちろん、鷲津の部屋、つまり鷲津ファンド投資顧問の社長室、である。
「・・・だから、治くんの『提案』は、この格好で鷲津さんのところに行くことだったの」
「は? 僕のところに?」
確かに鷲津にとって、由香の女子高生姿に一抹の郷愁を感じないかといえば嘘になる。
あの頃から、自分は由香に対して特別な想いをいだいていた。
大人になるのを待とう、そしていつか自分の気持ちを伝えようとして、あの事件が起こったのだ。
「治くんが教えてくれたの。 鷲津さんは制服姿の女の人が好きなんだって。 ・・・特にジョシコウセイが」
「はあ? 誰がだ!」
「だって打ち合わせしてるときも、女子高生のほうばかり、ジーっと見てるって」
いつの間に普段の調子を取り戻したのか、由香の瞳には険しい色が混ざっている。
「あのね、由香さん。 君、西野にだまされてるよ」
鷲津が椅子から立ち上がり、やれやれとばかりに頭を振った。
「僕が女子高生のほうを見ていることがあるとすれば、ね」
そう言って、鷲津がゆっくりとセーラー服の由香に近づく。
「あ、あの・・・鷲津さん?」
察知した由香が身体を引こうとしたが、鷲津の腕に阻まれてそれは適わなかった。
肩を強くつかむ鷲津に、由香は自然抱きしめられる格好になる。
「君の高校は、セーラー服ではなかったな」
「そう、え? 覚えてたの? 鷲津さ、」
その後の由香の言葉は、鷲津の唇で封じ込まれた。
圧倒的な力の差に、抵抗出来ない由香の口腔を、鷲津はここぞとばかりに蹂躙する。
そして片手で、由香のスカーフを器用に解いていった。
由香の上着の下に差し込まれた鷲津の手は、好き勝手に動き回って由香を追い上げる。
スカートの中にもぐりこんでくる指に、由香は身体を捩らせて逃げた。
真っ白になっていく頭の中で、由香は懸命に今、現在の自分と鷲津の状況を考える。
ここは彼の執務室で、まだ社員はほとんどフロアに残っていて、私はこんな格好で、立ったまま鷲津にいいようにされている、と。
・・・これってやっぱり・・・怒ってる?
「ん・・・・ッ」
舌で上顎を舐められ、鷲津に胸のふくらみを下着の上から撫でられた。
湧き上がる下半身の甘い痺れに、由香は必死に耐えている。
しかし早くなる動悸、乱れる息遣いは、もう隠しようがない。
「・・・ん、・・・なさい・・・・」
涙まじりの声のあと、一瞬の静寂。
「・・・鷲津さん、ごめんさない、・・・だから、怒らないで・・・」
ほつれた三つ編みが頬や額に乱れ、由香の瞳は大粒の涙に潤んでいる。
このときの鷲津は、よほど恐い顔をしていたのだろう。
そんな由香を横目に見ながら、鷲津がすばやくデスクのPCの電源を落とした。
「ロッカーの中から僕のコートを出して、羽織りなさい」
「え?」
西野のやつ、今夜は貸しになるか借りになるか。
一方、鷲津はこんなに簡単に西野にのせられる由香が、心配でならない。
どうしていいかわからず、言われたとおり鷲津のコートを羽織った由香を振り返る。
「帰るぞ。 そんな姿、マスコミに嗅ぎつけられたらどうする」
その後、由香が鷲津のマンションに連れ込まれたのは言うまでも無い。
そして実は来年の創立記念日が待ち遠しい、と素直にいえない鷲津であった。
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